2.イケメン☆同僚


「あー、セクハラ見っけ!」

秋山さんが座ってるのと反対の、あたしの左隣の空いていたスツールに、舜がやって来て座った。

舜はあたしと同期入社の新入社員。 でも大卒だから、あたしより2コ上の22歳なんだけどね。
185cmあって、秋山さんよりさらに背が高い。 スラリとしたスタイルで顔もイケてるから、結構女子社員にファンも多い。
苗字が中村で、同姓の先輩が二人もいるから、みんなに名前の舜で呼ばれてるの。
昔、野球部だったとかで、挨拶とか礼儀とかがちゃんとしてるせいか、男の先輩達にも可愛がられてるみたい。
秋山さんとあたしと同じグループで、同期のあたしには何かとちょっかい出してきたり、からかわれたりもしてるんだけど、憎めないやつなんだ。

舜にセクハラと言われ、秋山さんはあたしの髪から手を離した。
あー、ちょっと残念。
いつもの調子で「舜、邪魔しないでよ」と文句の一つも言ってやろうと、舜の顔を振り返ったんだけど……

軽い口調に似合わず、マジな表情の舜が、秋山さんを睨んでるみたいに見えた。
「…………」
言いかけた言葉が出てこなくて、なんだか気まずくなって、あたしは秋山さんの方に再び顔を向けた。
秋山さんは短くなったタバコを灰皿に押し付けて消してた。
「…………」
秋山さんにも何て言っていいかわからなくて、あたしが戸惑ってると、秋山さんは火の消えたタバコから目を上げてあたしの顔を見て微笑んだ。
「ライバルが睨んでるから、少し席を外すよ……それとも、俺と一緒にダーツしに行く?」
「えっ……」

ライバルって……

あたしがどうしようか迷ってると、舜があたしの肩に腕を回してきた。 そして、耳元に顔をよせて囁いてきた。
「おまえ、秋山さんの噂知らねーの?
新人食っちゃうのなんてあの人にとっちゃ、朝メシ前だぜ?」
あたしは驚いて舜の顔を見つめた。 いつものふざけた表情ではなくて、嘘を言ってるようには見えない。
そんなあたし達を横目に、秋山さんは「じゃ、俺、あっちに行ってるから、よかったらかりんも後でおいで」と行ってしまった。
「あ、はい……」
あたしは、とりあえずその場に残ることにした。

「ったく、危なっかしいなー。 おまえ、そんなに男に飢えてんの?」
立ち去る秋山さんを見送りながら、舜が呟いた。
「しっつれーね! だいたい今の話、本当なの? 秋山さん、そんな人に見えないよ!」
あたしは乱暴に舜の腕をはずして、舜に向き直った。
キッと舜を睨みつけたけど、舜は痛くも痒くもないといわんばかりのクールな表情で言った。
「人事の紗英も、経理の智恵美も、受付の派遣の子も、みーんな秋山さんと寝たらしいよ」
「えっ、マジ……」
実は、今名前が上がった子達が秋山さん狙いだったのは知ってた。
たまに、ランチを誘いに秋山さんのところに来てたりしてるの、見たことあったし。
でも、もうやっちゃってたとは……うー、ショック!

あたしが落ち込んでると、舜はあたしの顔を覗き込んできた。
「かりん、秋山さんのこと、マジだったのかよ?」
あたしはうつむいたまま答えた。
「別にそんなんじゃないよ。
ただ、一番お世話になってる上司だし、そんなに手が早い人だと思ってなかっただけ」

あたしはちょっと嘘をついた。
本当はかなり憧れてたし。
さっきだって、結構マジで期待して、今日は秋山さんと……なんて考えたりしちゃってたし。

「ふうん」

あたしの言葉を信じたのかわからないけど、舜は相槌をうつと、バーテンダーにカクテルを頼んだ。
しばらくすると、舜とあたしの前に綺麗な色のカクテルが置かれた。
あたしは顔を上げて舜に聞いた。

「これは?」
「飲んでみな、うまいから」
舜はそう言って自分のグラスを持ち上げた。
あたしも恐る恐る口をつけてみた。
あ、おいしい!
「これ、なんていうカクテル?」
「知りたい?」
舜が、あたしの目を見た。
その目がいつになく、セクシーに見えてドキッとした。
ちょっとやだ、あたしったら!
たしかに舜はイケメンでモテるけど、あたしにとっては同じグループの仕事仲間で、いつもいじわるばかり言ってくる嫌なやつで。
そんなやつに、あたし、何ドキドキしてんのよ。
あたしが自分の心臓に、心の中で文句を言ってたら、
突然、舜の顔が目の前にせまってきて――


キスされた!!