1.イケメン☆上司


「かりん、どうした? 気分でも悪くなったか?」
あたしがカウンターで一人カクテルをなめてると、秋山さんが話しかけてきた。

秋山さんは、あたしがひそかに憧れてるグループのリーダー。 背が高くて、優しくて、声が低くて大人の色気がある32歳、独身のイケメン上司。 短大卒で入社して、2ヶ月の社内研修後に今のグループに配属されたあたしに、仕事を一から教えてくれた人。 すごく尊敬もしてるの。

「ちょっと疲れちゃって」
あたしは心配かけないように、唇の両はしを少し持ち上げて答えた。
「大丈夫か、なんか無理に笑ってる顔だな」

ああ、秋山さんってば、やっぱりすべてお見通しって感じ。 仕事でも、あたしが困ってることをいつも先回りして教えてくれる。 だから秋山さんの顔を見るとすごく安心する。 今も人疲れしちゃってたんだけど、秋山さんが隣に座ってくれたらなんか元気出てきた。 あたしってゲンキン?

「全然、ヘーキです!」
今度は満面の笑みで答えた。

今日は青年実業家である我が社の社長の結婚披露パーティー。
従業員100人程度の小さい会社なので、社員は強制的に全員参加。 でも、ダーツやビリヤードもあるこんなオシャレな会場なら、喜んで参加しちゃう。 みんなそれぞれに楽しんでるみたい。 あたしもさっきまでビリヤードをやってたんだけど、ちょっと疲れたから誰もいない隅のカウンターに来て休んでたところ。

秋山さんは手を挙げてバーテンダーを呼び寄せ、ウイスキーのロックを頼んだ。 そして、胸ポケットからタバコの箱とライターを取り出し、あたしに「吸っていい?」と聞いてきた。
こういう仕草、一つ一つが大人っぽくてカッコイイんだよなあ。
あたしもちょっと大人ぶって足を組みなおし、「どうぞ」と答えた。 タバコの煙を吐きながら、秋山さんがあたしの全身に視線を走らせたのがわかった。
「今日のドレス、よく似合ってるな。あ、これってセクハラか?」
そんな風に見られたら、ちょっと恥ずかしい。 でも、気合い入れてちょっと大人っぽいデザインのドレスを選んだんだもん。 憧れの人に褒められて、嬉しくないはずない。
「え、そんなことないです。嬉しいです」
「ふだんとヘアスタイルもメイクも違って、なんか別人みたいだな」
色っぽい目つきで言われ、なんだかドキドキしてきて、あたしはわざとふざけて答えた。
「えー、それってふだんは全然ダメってことですかぁ? それとも、今日は化粧濃すぎって言いたいんですかぁ?」
あたしがちょっとふくれてみせると、秋山さんはフッとほほえんで、あたしに顔を近づけて囁いた。
「ふだんは可愛い妹みたいだと思ってたけど、今日は何だかセクシーで他の奴らには見せたくない気分だよ」
「えっ」

うわ、秋山さん、直球過ぎ! あたし、今、きっと顔真っ赤だ……
「なあ、ハタチのかりんから見たら、ひとまわりも年上の俺なんかはやっば、オヤジか?」
ドキドキしてるあたしに秋山さんはそんなことを聞いてきた。 これって、もしかして、あたし期待していいのかな。
「全然そんなことないですよ。秋山さん、見た目すごく若いし、でも大人の男って感じで素敵だし……」
うわあ、なんかあたし、これじゃコクッてるみたい!?
「……かりんは彼氏いるの?」
「いないです……」
「俺もいないんだよね……」
秋山さんは、つと手をのばし、あたしの髪に触れた。
あーん、すっごいドキドキする。 これって、もしかして、もしかする?
えー、でも秋山さんは憧れの人だけど、あたしには手の届かない人だと思ってたから、まだ心の準備がぁっ!

と、その時―――