9.姫の幸せ ― 4

タオルケットをかけてぐったりして目を閉じていると、後始末を済ませた宮部が顔中にキスを降らせてきた。
「んふ、くすぐったい……」
目を開けると、微笑む宮部と目が合う。
「姫、今日は早いね」
「え?」
イクのが、と耳元で囁かれ、顔が熱くなる。
「やあっ、もうっ!」
軽くぶつと、クスクス笑って、足を絡めてきた。
「これで終わり、なんて言うなよ?」
「え?」
「第2ラウンド、いいですか?」
「もう、そんなこと訊かないで!」
「じゃぁ、オーケーってことで……」
言いかけた宮部の声をさえぎるように、電話が鳴る。
宮部のスマホだ。
「あー、ったく!」
ぼやきながら液晶を見た宮部は、うるさそうに電源を切った。
「いいの?」
「いいのいいの!」
「仕事の電話じゃないの?」
なんとなく、さっきの新人君のような気がして訊くと、イヤそうにうなずく。
「出てあげたら? わかんないことがあるんじゃない?」
しばらく頬を膨らませていた宮部は、しぶしぶ体を起こし、スマホの電源を入れた。
電話をかけ、いくつか質問に答え、指示を出す宮部。

いいなぁ……。
ホントだったら、私もこうやって宮部に教育してもらうはずだったのになぁ。
そんなことを考えながら、スマホで話す宮部を見ていて、ふと思い出したことがあった。
電話を切った宮部に、さっそく訊いてみる。
「ねぇ、宮部」
「ん?」
「私の写真、見せて」
「え?」
「言ってたじゃない? その中に入ってるんでしょ? 宮部が隠し撮りしたっていう私の写真」
「あー……、うん、まぁ、ね」
「見せて」
宮部が、私に一目ぼれした瞬間がいつなのか知りたかった。
「んー、姫、怒んない?」
「え? 怒るような写真なの?」
「いや、俺は可愛いと思って撮ったんだけどさ」
「いったい、いつの写真なの?」
「んー、じゃぁ」
宮部はスマホを操作して、写真を探す。
「ホントに、怒るなよ?」
「そんなの、見てみなきゃわかんないよ。早く見せて!」
奪うように、スマホを持った宮部の手をつかみ、引き寄せる。
すると、そこに写っていたのは。
「ちょっ、やだっ、なんでこんな写真!?」
「可愛いじゃん」
「全然可愛くない!」
写っていたのは、新人研修のときの、アヒル歩きしている私の姿だった。
顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。
それなのに、宮部はクスクス笑っている。
「これ、人に見せてないでしょうね?」
「見せないよ、俺の宝物だもん」
「なにが宝物よ! ひどいー、こんなの消してよ!」
「やーだ」
「なんで?」
「だから、俺が姫に惚れた記念すべき瞬間の写真なんだって」
「信じられない!」
「なんでよ? 同期のヤツラは笑ってたけどさ、佐藤マネージャーもまりあさんも、感心してたんだよ? お客様のことを自分なりに考えてるって」
「もうっ、そんなこと言われてもうれしくない!」
「なんでだよ。これがなかったら、俺だって、姫に惚れてなかったかもしれないんだよ? それでもいいの?」
「うっ、それは……。でも、なんで、それなのよ?」
唇をとがらせて訊くと、宮部は、いとおしそうに写真を見る。
「俺にはこういう発想はできないなって思ったからさ」
「……バカにしてるでしょ」
「してないよ! 本当に感心したんだよ。すげぇなって。それに、なにより、この格好がかわいい」
ニコニコとアヒル歩きの私を見る宮部は、本当にうれしそう。
……宮部の美意識は、どうやら、一般とは少しずれているらしい。
「もういい」
もう見たくなくて、スマホを押しやると、宮部は素直にそれを置き、また私に覆いかぶさってきた。
「じゃ、2ラウンド目……」
「ちょっと待って!」
「なんだよー。いつまでお預け?」
「言ったでしょ、私、話をしに来たの。いきなりベッドに押し倒してきたのは、宮部じゃない」
「嫌いじゃないくせに」
ボソッとつぶやいた言葉は無視して、話を続ける。
「ねぇ、これからの私たちの付き合い方について、ちゃんと……、きゃぁっ!」
宮部は、いきなり胸に口づけてきた。
「姫、話はもうちょっとあとにして。俺、裸の姫、目の前にして、もうこれ以上我慢できないから」
「ちょっと、宮部、ダメッ、あっ、あんっ……」