9.姫の幸せ ― 5

「…………」
「姫ー、機嫌直してよ」
「…………」

結局宮部に押し切られ、たっぷり愛されて、私が解放されたのは、1時間以上過ぎてからだった。
宮部に背を向けて、壁の方を向いている私に、宮部はさっきからいろいろちょっかいを仕掛けてくる。
宮部のことを知りたい、とは思ったけど、ここまで野獣だったなんて知りたくなかったかも。
ふくれていると、宮部が後ろから抱きついてきた。
「姫、拗ねるために、わざわざ新幹線乗ってきたわけじゃないでしょ?」
「…………」
「これからのこと、話すんでしょ?」
優しい声出したって、ダメなんだから。
「俺さ、マジで、当分はめちゃくちゃ忙しんだよね」
宮部の声が、ちょっと真面目になる。
「10月1日がグランドオープンなんだけど、それまでに、あの新人を使えるようにたたき上げなきゃならなくてさ、やることが山積みなんだよ」
仕事の話になったので、向きを変えようとしたら「そのまま聞いて」と止められた。
しかたなく、宮部の声を後ろに聞き続ける。
「でさ、10月もたぶん、休みなしで働くことになると思うんだ。だから、東京に行けるのは、11月になってからだと思う」
「じゃぁ、9月10月は、私が来るよ。それもダメ? 仕事の邪魔になる?」
「いや、それは嬉しいけど、でも、毎週は姫も疲れちゃうからダメ。2週間に1度ね。あと、交通費は俺が出すから」
「えー、そんなの、いいよ」
「よくない。それを受け入れられないなら、来ちゃダメ」
「うーーーー」
「11月以降は、できるだけ俺から会いに行くから。どうしても行けない時は、姫に来てもらうこともあるかもしれないけど、姫が来る場合は、2週間に1度。それは守って」
「うーん……、わかった」
ホントはもっと会いたいけど、たしかに数時間かけて会いに来るのは、体力的にきつい面もあるから、しぶしぶうなずく。
「で、さっさと一人前のプランナーになって」
「は? 急に話が飛んだよ?」
「いいの。教育係だった俺からの命令」
「うーん……、はい」
なんとなく釈然としないけど、私だって、早く一人前にはなりたいから、一応うなずく。
「あと、いつになるかわかんないけど、俺がプラン作るから、チャペルで俺の隣に立つこと」
「えっ?」
なにそれ?
またものすごく話が飛んだよ?
でも、心臓はすごくドキドキし始めた。
「返事は?」
「えっ、ちょっと待ってよ、それって」
宮部の顔を見たくて、向きを変えようとするけど、ギュッと押さえつけられて、身動きできない。
「宮部! 顔見せて!」
「返事しないとダメ」
「…………」
わかった。きっと宮部、顔真っ赤なんだ。
うー、だったら、なおさら見たい!
「……姫、イヤなの?」
返事をしない私に、宮部が弱気になってる。
「イヤなワケないでしょ! でも、ちゃんと目を見て言ってほしい」
そう言うと、宮部は、くるりと私の向きを変えた。
あれ? 思ったより、顔赤くない。
宮部は、真剣な顔で私を見つめる。
「姫、いつか俺と結婚してください」
「はい。喜んで」
照れくさい。
でも、すごく嬉しい!
その気持ちのままに、宮部に抱きつく。
「私、今、ものすごく幸せ」
耳元でささやくと、宮部も耳元で答えてくれた。
「俺も」
ギュッと強く抱く腕に力を込める。
そのとき、宮部の耳が真っ赤なのに気付いた。
「宮部、耳、赤いよ?」
「うるさいっ!」
「きゃぁっ!」

宮部のこと、またひとつ知った。
照れると、顔色はあまり変わらないけど、耳が赤くなる。
これから、もっともっと、宮部のいろんなところを、見つけていこう。
そうして、私の中が宮部でいっぱいになって、機が熟したら、そのときは……。
宮部、愛してる……。


【END】