9.姫の幸せ ― 3

宮部の新居は、新しそうなアパートの、広めのワンルームだった。
「ごめんな、まだ全然片付いてなくて」
言葉通り、部屋の中は、段ボール箱だらけ。
でも、家具もまだベッドしかないから、印象としては、がらんとしている。
「あっ、やべぇ、飲むもん買ってくりゃよかったな。姫、コンビニすぐそこだから、ちょっと買ってくる。その辺座ってて」
靴も脱がないうちにまた出て行こうとする宮部のスーツのすそを、とっさにつかんだ。
「いい、いらない」
「でも」
「お願い。もう、どこにも行かないで!」
至近距離で宮部の目を見つめる。
やっと会えたのに、もう、置いていかないで。
「姫……」
「このあいだ、宮部がこっちに来た日、東京駅まで行ったの。でも、中央線が人身事故で遅れて、間に合わなかった」
「…………」
「でもそこで、黒沢さんに会ったの。聞いたよ。宮部、言ったんだって? 『姫はこっちの男と一緒になった方が幸せだ』って。なによそれ? 私の幸せを勝手に決めないで!」
「…………」

なにも言ってくれない宮部にじれて、抱きついた。
「ねぇ宮部。答えて。私は宮部のなんなの? 恋人じゃないの? 大切に思ってくれてるんじゃないの? 私は、宮部が好き。離れたくない。宮部がいなきゃ、私は幸せになんてなれない!」
「姫……」
耳元で私の名を呼んだ宮部は、ギュッと抱きしめ返してくれた。
「大切だよ、姫。誰より大切に思ってる」
「じゃぁ、どうして黙って行っちゃうのよ!」
「ごめん」
「謝ってほしいわけじゃないよ」
「……このあいだも言ったけど、3年は帰れないって言われた。もしかしたら、その間にチーフになるかも。そうしたら、6年は帰れなくなるって。万が一、マネージャーになんかなったら、いつ戻れるかわからない。そんなに長く遠距離恋愛してくれっていうのは、俺のわがままかなって」
「ばか! 私の幸せは、宮部のそばにいることなの! 何年だって待つし、遠距離恋愛だって平気だよ? 毎週会いに来るもん!」
「姫……」
抱きついていた顔を上げて、宮部の目を見る。
「宮部が好きなの。そばにいたいの。お願い……」
すると、私を切なそうな瞳で見ていた宮部が、いきなり激しく口づけてきた。
「んっ」
宮部の舌を追って、自分からも絡める。
数か月ぶりのキスは、甘く激しく、もう二度と離れたくなくて、ギュッと首にしがみ付く。
宮部も、私の髪の中に手を差し込んで頭を固定し、逃がすまいとするかのように腰を抱く力も強まった。
「んん……」

そのまま、引きずられるようにベッドまで連れて行かれ、そっと押し倒される。
いったん唇を離した宮部は、首筋に唇を這わせる。
「あっ……」
敏感に感じる部分を舌でなぞられ、ピクンと身体が跳ねる。
少し乱暴に服をはがされ、露わになった胸を優しく揉まれて、一気に体が熱くなった。
「はぁっ、宮部……」
名前を呼ぶと、また深くキスされた。
唇を離した宮部は、私の目をまっすぐに見て言う。
「姫、愛してる」
「宮部、私も……、あんっ」
すぐにまた胸を愛撫され、言葉が続かなくなる。
下も脱がされ、すでに濡れそぼった場所にも、指が忍び込んできた。
「あぁっ」
「すごい……」
「やだ、恥ずかしい」
「でも、こういうふうにするの、好きでしょ?」
「あん、ダメッ」
宮部は、私の弱いところをもうよく覚えていて、そこばかり責めてくる。
「はぁっ!」
「姫、久しぶりだから、我慢できない。もう、いい?」
切羽詰まった声で言われ、コクンとうなずく。
すぐに宮部は中に入ってきた。
「あっ、あっ、あっ……」
速いリズムで責め立てられ、どんどん昇りつめていく。
「はぁぁぁ!」
もう2回抱かれた身体は、宮部の癖に合わせて動き、あっという間に頂点に達してしまった。