8.本当の気持ち ― 2

こんなふうにふざけ合ってると、宮部に避けられてたことがウソみたいに思えてくる。
一目ぼれした、とか平気で言うし。
前のまんまの宮部だ。
それに勇気を得て、核心に触れてみる。

「ねぇ、それより、ここ1か月、なんで私のこと避けてたの?」
ズバリ訊くと、一瞬息をのんだ宮部。
う、ヘンな空気……、でも負けない!
「説明してよ」
畳み掛けると、宮部はへらっと笑う。
「いやー、本当にめちゃくちゃ忙しくてさ、徹夜じゃない日も、毎日終電で帰る日が続いてて。姫、何時でもいいって言ってくれたてけど、気力も体力も限界でさ。ホント、ゴメン」
「それだけ?」
「あぁ、ホントそれだけ」
……ウソ。
ニコニコしてるけど、心から笑ってないのくらい、わかるんだから!
もう全部訊いてやる!

「あのね、宮部。私、宮部に謝らなきゃならないことがあるんだ」
真面目な顔で、少し声を低めて言うと、宮部も顔から笑みを消す。
「なに?」
「聞いちゃったの。前に、宮部が美里さんと喋ってるのを。盗み聞きなんてして、ごめんなさい」
「…………」
いつのことかと思い巡らしてる様子の宮部に、思いきって告白する。
「優華さんの家に行った日、宮部、美里さんに詰め寄ってたでしょ? わざとダメにするようなトークをしたんじゃないかって。で、それは『俺がクロサワの件に関わるのをやめるって言ったせいですか』って言ってたよね?」
「…………」
「クロサワさんって、まえに会社に来た人だよね? 宮部と美里さんとクロサワさんって、どういう関係なの? 宮部が私に連絡くれなくなったのって、あの頃からでしょ? 私にも関係あるの? どういうことか、教えてよ」

ほんの少し考える様子を見せた宮部。
だけど、すぐに私をまっすぐ見て教えてくれた。
「クロサワ……、黒沢 尚吾(くろさわ しょうご)っていうんだけどさ、あいつは俺の大学時代の親友で、美里さんは、黒沢の彼女なんだよ」
「えっ、美里さんが、黒沢さんの彼女?」
「あぁ。美里さんは、黒沢が大学2年のときに合コンで知り合って、付き合ってた彼女」
「大学2年……、じゃぁ、宮部、美里さんと学生時代からの知り合いなの?」
「そう」

そうだったんだ……。
そんなこと一度も聞いたことなかったから、ビックリだ。
「学生時代は、3人で遊びに行ったりもしてたんだ」
「そうなんだ。で、黒沢の件に関わるのをやめたっていうのはどういう意味?」
「あいつ、大学4年の時に、俺らになにも言わずに急に留学しちゃったんだよ。実家に連絡しても、おふくろさんは『尚吾から連絡先を教えないでほしいって言われてる』って言って、何も教えてくれなくてさ」
「え、なんで?」
「わからない。それがわからないから、美里さんも俺もずっと心配してて、卒業後も、あいつの実家には連絡を取り続けてたんだ。で、今年の春になって、おふくろさん、やっと折れてくれて。向こうで就職して、今年になって日本に戻ってきたって教えてくれたんだ。でも、就職先やあいつの携帯番号なんかはやっぱり教えてくれなくて」
「ふぅん」
「大学時代の別の友達から、黒沢を吉祥寺で見かけたって連絡もらって、夜中に美里さんと一緒に探しに行ったりもしたんだ。でも、行ったときには、もういなくなってて会えなかったんだけどさ」
あ、それって……。
「ねぇ、それって、うちに初めて来た日のことじゃない?」
「あー、どうだっけ? うん、そうそう、あの日だ! でも、なんで姫がそれを知ってんの?」
「会社の子から聞いたの。宮部と美里さんが駅で待ち合わせしてるのを見かけたって」
「あー、なるほど」
「それで?」
「うん、で、そのときに、もう黒沢が消息を絶って3年以上過ぎてるし、日本に戻ってきてるのに俺らに会いたがらないのは、なにか事情があるんだろうから、もう俺は、あいつを追いかけるのはやめるって、美里さんに言ったんだ」
「うん」
「でも、美里さんはまだ一緒に探してほしいって、意見が割れて。それでも、俺はもう探さないって決めたからって断ったから、美里さんには恨まれてるかもなぁって思ってさ」
「そっか。それが『俺がクロサワの件に関わるのをやめるって言ったせいですか』っていうのの意味だったんだ……。でもあのあと、黒沢さん、宮部に会いに来たじゃない? だったら、もうそのことは解決したの?」
「んー、まぁ、そうかな」
「じゃぁ、私に連絡くれなかったのは、黒沢さんとは関係ないってこと?」
「あぁ。だから、さっきも言ったように、それは忙しかったってだけ」