7.四角関係……? ― 7

「そうですね。こんな経験、何度もすることじゃないですものね。葛西さん、私たち、なにもわからないので、いろいろご指導お願いしますね」
「もちろん、喜んでお手伝いさせていただきます。まずは、日にちを決めてしまいたいのですが、いつ頃を予定されていらっしゃいますか?」
訊くと、逆に一之瀬様が質問してきた。
「あのぅ、雑誌などを見ると、3か月以上前に予約しないといけないようなことが書いてあるんですが、9月の予約はムリですか?」
「いえ、まだ2か月ありますから、すでに入っている予約とぶつからなければ、大丈夫ですよ」
「そうですか。実は、仕事の都合で9月上旬の日曜がいいんですが……」

そこで、空き情報を確認し、おふたりの結婚式は、9月2日の日曜日に決まった。
日にちが決まってしまえば、あとはスケジュールリストに従って、おふたりに、決めるべきことを決めてもらうだけだ。
もちろん、この場で決められないことも多いから、それらは持ち帰って検討していただき、次回報告していただくことになる。
いくつか、今日決められることを決め、次回のアポイントを取って、今日の打ち合わせはお開きになった。

おふたりを見送り、オフィスに戻ると、2時過ぎ。
先輩に頼まれて、2時間ほど接客コーナーに座ったけれど、新規のお客様は現れず、その後オフィスに戻って今日の報告書を作成し、佐藤マネージャーに提出する。
「本日の一之瀬様・源様の打ち合わせの報告書です」
「あぁ、お疲れ様。打ち合わせ、無事に終わったかい?」
「はい。日取りは9月2日の日曜日になりました」
簡単に内容を口頭で報告すると、うなずきながら聞いていた佐藤マネージャーは、最後に言った。
「宮部君のことなんだけどね」
――ドキン!
宮部の名前を聞くだけで、胸が高鳴る。
「はい」
「明日、7/1付けで、本社に出向してもらうことになった」
「えっ……」
宮部が、本社に出向……?
「彼、9月から大阪に行ってもらうことになってね。本社からも新人をひとり異動させるんだが、今月と来月、本社でそいつが使い物になるように、宮部君につきっきりで指導してもらうことになったんだよ」
「そうなんですか……」
「そういうわけだから、葛西さんのことは私が直接見るから、なにかあれば逐一相談して」
「はい……」
「じゃ、今日はもういいよ。お疲れ様」
「お疲れ様でした」

半分上の空で、マネージャー席を離れる。
宮部が本社へ出向し、その後は大阪に行ってしまう……。
あまりにショックが大きくて、言葉にならない。
心にぽっかり大きな穴が開いた感じ。
宮部、本当に大阪に行っちゃうんだ……。

のろのろと帰り支度をして、気がついたら家に着いていた。
宮部……。
だめだ、このままじゃいられない。
今夜こそ、宮部と話さなきゃ!
すぐに電話をかけたけど、今日も留守電。
でも、今日はそのまま切らず、メッセージを残した。

「姫子です。話たいことがあるので電話ください。何時になっても構いません。待ってます」

だけど……。
10時過ぎになっても宮部からの電話はなく、もう一度かけたけど、やっぱり留守電。
メールもしてみたけど、12時過ぎても返信は届かず。
……私、避けられてる?
どうして?
心の中で宮部に問いかけ、その後には憤りさえ感じながら、しぶしぶ眠りについた。


その後、一之瀬様・源様との打ち合わせは、週末ごとに回を重ね、順調に準備は進んでいった。
しかし、宮部からの連絡は一向にない。
何度もこちらからは留守電を入れたり、メールを送ったりしているのに、一切折り返してこない。
避けられているのは明らかだった。
でも、その理由がわからない。

私……、なにか、宮部に嫌われるようなことした?
最後にちゃんと言葉を交わしたのは、一之瀬様・源様に、お父様と会ったことを報告した打ち合わせの時だけど、あの日、特に嫌われるようなことなんて、した覚えはない。
思い浮かぶのは、あの夜、クロサワさんが宮部を訪ねてきたこと。
そのことと、私が避けられていることは、関係してる?
まさかね……。
わからないことが多すぎる。
宮部、説明してよ。
会いたい。
会って、ちゃんと話をしたい……。

そう願っていた私が宮部に会えたのは、約1か月後、7月末の、まりあさんの送別会の場だった。