7.四角関係……? ― 1

翌火曜は、私のいつものお休み。
家でたまった家事を片付けていても、宮部とクロサワさん、そして美里さんの関係が気になったけど、宮部のスマホは私が水没させて、今はかけてもつながらない状態。
宮部、数日は電源入れないで乾かすって言ってたもんね。
当然、宮部からも連絡はなく、モヤモヤしたまま、休みは明けた。

水曜日に出社すると、宮部は朝から佐藤マネジャーに呼ばれて会議室にこもったまま。
私は私で、一之瀬様・源様の次回の打ち合わせに備えての資料作りで忙しく、あっという間に終業時間になった。
結局、宮部とは、ひと言も話せずじまい。

そして、木曜日。
午前中、またも宮部は会議で、資料をまとめているうちにお昼になった。 「姫、ランチ行こう!」
昨日は休みだった佐奈に誘われて、由梨と3人でランチに出ることに。
それぞれ頼んだものが来たところで、思いきって、モヤモヤを吐き出すことにした。
「あのさ、ちょっと聞いてくれる?」
「なになに?」
「このあいだね……」
盗み聞きした宮部と美里さんの会話、そして、クロサワさんが訪ねてきたことを話すと……。
「うーん、そう言われてもなぁ」
「そうね、その場にいたわけじゃないから、言葉のニュアンスとかわからないし」
「じかに宮部に訊いてみれば?」
「うん、私もそれが一番たしかだと思う」
佐奈も由梨も、そっけない。
もぉー、私は、日曜からずーっと悩んでるっていうのにー!

「それよりさぁ」
人の気も知らずに、佐奈は別の話を始める。
「私さっき、佐藤マネージャーに、大阪に行かないかって打診されちゃった」
「えぇっ、大阪? どういうこと?」
意外な発言に、一瞬でその話に食いつく由梨。
いや、私も、だけど。
「今度、大阪に店舗出すって話あるじゃない? それで、そっちに行かないかって言われたの」
「ホントに?」
「うん。だけど私、生まれも育ちも東京だから、大阪に土地勘ないし、友達もいないし、できれば行きたくないって断っちゃった」
「まぁ、それはそうだよねぇ」
由梨と一緒に私もうなずく。
「だけど、佐藤マネージャー、頭抱えてた。うちから誰かひとりは出さなくちゃならないみたいよ」

そういえば、このあいだ、佐藤マネージャーに頼まれて、大阪の出店に関する資料を修正したっけ。
「でも大阪って、来年の出店でしょ? まだ6月なのに打診って、早くない?」
訊くと、佐奈は首を振った。
「それが、年内に早まったらしいのよ。10月にはオープンするみたいで、9月には開店準備のために、向こうに人を集めるって」
「10月オープン……。だったら、まだ6月って言っても、今日が28日だから、あと数日で7月だし、8月はお盆休みもあるし、異動のための引き継ぎとか考えたら、7月中に異動の発表があってもおかしくないわね」
たしかに由梨の言うとおりだ。
急に不安になって佐奈に訊く。
「ねぇ佐奈、うちからって、それ、アテンダントとプランナーのオフィスからって意味?」
「うん」
「じゃぁ、私かもしれないってこと?」
私だって、実家のある千葉と、大学のときから住んでいる今の三鷹のマンション以外、引っ越したことはないから、大阪なんてまったくわからない。
でも、うちの会社は、女性でも転勤はある。
辞令が出れば、断ることはできない。
眉をしかめていると、佐奈に笑い飛ばされた。
「姫は、まだ最近プランナーになったばっかりなんだから、いきなり異動はないよ!」
「そうかな? でも、まりあさんはもうすぐ退社しちゃうし、結婚してる先輩も考慮されるだろうから、身軽に動けるのって、独身の、美里さんか宮部か私でしょ? 美里さんは次期チーフだし、まりあさんがいなくなって宮部までいなくなったらうちがパンクしちゃうから、行けるのって私くらいじゃ……」
「でも、こう言っちゃなんだけど、プランナーになりたての姫が、新規店舗の大阪に行っても、即戦力にはならないんじゃない? だから、姫はないよ!」
うーん、佐奈のお墨付きは、嬉しいんだか嬉しくないんだか……。
でも、客観的に見たら、その通りだ。
今の私の実力じゃ、即戦力にはならないだろう。 「でもさ、まりあさんがいなくなるのに、さらに人を減らすなんて、ムリなんじゃ……」
「だから、佐藤マネージャーも頭を抱えてるんじゃない?」
「あぁ、そっか」
佐奈の言葉にうなずいてから、ふいに思い出した。
「あっ、そういえば! 宮部、昨日からずーっと会議室にこもってるんだけど!」
「え、そうなの?」
昨日休みだった佐奈は知らなくて当然。
でも、昨日も今日も、朝からずーっと会議室で、おかしいなとは思ってたんだ。
「まさか、宮部が……?」