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5.接客トラブル発生 ― 3

「葛西さん、大勢で押しかけてしまって、すみません!」

翌土曜日、約束の時間通りに現れた一之瀬様は、開口一番そう言って、源様のご両親とご自分のお母様を紹介してくれた。
やっぱり、第一印象どおり、さわやかでいい人だなぁ。
「いえ、大歓迎です」と微笑みながら、親御さんたちに向き合う。
「このたびはおめでとうございます。一之瀬様・源様ご両家の結婚式・披露宴を担当させていただきます、葛西姫子と申します。よろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げ、おひとりずつに名刺を渡した。

源様のお父様は、背が高くて、黒々とした角刈りの、いかつい感じの人。
会社の社長さんって話だけど、目つきが鋭くて、悪役専門の俳優さんって言われた方が、納得できる。
昨日、聞いた話だと、なんでも自分の思い通りにしたがるワンマンな経営者、なんだっけ。
たしかに、この強面のお父様には、逆らえなさそう……。
一方、源様のお母様は、優しそうな、ショートヘアの小柄な女性。
目元が源様そっくりで、控えめで貞淑な妻って感じ。
対照的に、一之瀬様のお母様は、セレブ妻のオーラがビンビン伝わってくる。
大きくウェーブのかかったロングヘアに、真っ赤なスーツ、そして、持っているのは超高級ブランドのバッグ。
背筋をピンと伸ばしていて、自信の塊って印象。

全員を接客テーブルに案内し、席についていただく。
6人がけのテーブルの、いわゆる誕生日席に私が座り、右手に、一之瀬様とそのお母様、左手に、源様とそのご両親が座られた。

「えーっと、今日は、披露宴の打ち合わせってことでしたよね?」
さっそく訊ねてきた一之瀬様にうなずく。
「はい。細かいことは、持ち帰って皆様で相談していただくことになりますが、本日こちらでは、披露宴のプランとオプションを決めていただきたいと思います」
各プランとオプションの詳細が載っているパンフレットを、全員に配る。
「まず、1ページ目をご覧ください。スタンダードプランは、私どものもっとも標準的なプランで、料金も比較的良心的に設定させていただ……」
「ふぅん、スペシャルプランになると、お料理が豪華になるのね」

説明の途中で、ひとり言のように口をはさんできたのは、一之瀬様のお母様だ。
一之瀬様のお母様は、最初から、スタンダードプランよりの上のランクのプランのページを見ている。
「はい。そちらですと、会場のお花も、より高価なものになりますし、ゲストの皆様にお使いいただく食器やカトラリーも、有名ブランドのものになります」
もちろん、その分、料金は高いんだけど。
でも、お母様は、金額には気をとめていない様子。
「そうねぇ。私は本当は、都心のホテルでの挙式披露宴がいいと思ったんだけど、ふたりがここがいいって言うんでね。だったら、代議士先生や丸三商事の社長にもいらしていただくことだし、これくらいのお料理じゃないとねぇ……」
おおおっ、さすがセレブ!
ゲストが、国会議員と超一流企業の社長ですか……。
内心興奮しながらも、おだやかな微笑みを顔に貼りつけ、うなずく。
すると。

「おい、ねーちゃんよぉ、料理なんかはどーでもいいから、花嫁衣装のパンフレットはねーのかよ?」
「…………」
ねーちゃん? って、私のこと、よね?
一瞬たじろいで反応が遅れたけれど、源様が険しい表情でお父様の方を向いたのを見て、すぐに口を開く。
「申し訳ございません。花嫁衣裳に関しましては、後日、衣装専門の担当者からお話させていただく予定です」
「あぁ? 後日だぁ? なんだよ、今日は衣装の打ち合わせはやんねーのかよ」
「はい、申し訳ございません」
謝っても、まだ口の中でブツブツ文句を言っているお父様にたまりかねたのか、源様が割って入ってきた。
「葛西さん、ごめんなさい。父のことは気になさらず、続けてください」
源様に軽く目配せし、微笑みかけた。
了解。先に進みますね。

「では、プランの話に戻りますが、皆さま、3ページのスペシャルプランの方で、ご異存ありませんか?」
訊くと、またお父様が声を上げる。
「ねーちゃん、これは、全部ひっくるめて、この値段ってことか?」
「全部、とおっしゃいますと?」
「だから、花嫁衣装とか、手に持つ花束とか、あの、頭につける長い布きれとか」
えーっと、それは、ドレスとブーケとヴェールのこと、よね?
「いえ、そういったものの価格は、ここには含まれておりません」
できるだけ穏やかにそう言うと。
「えっ、そうなのか? おいおい、そりゃーべらぼうじゃねーか! 折半するにしたって、高すぎるだろう。結婚式場ってのは、ずいぶんえげつない商売するんだな」
お父様の声はあたりに大きく響き、接客カウンターにいた他のお客様たちが全員振り返った。
うわわ、まいったなぁ。
困惑は胸にしまいこみ、周りのお客様に笑顔で軽く会釈する。
そして、お父様に価格について説明しようと口を開くと。
「お父さん、いい加減にして!」
源様に先を越されてしまった。
「お金のことは、私がちゃんと自分で貯めた結婚資金があるから、大丈夫だって言ったでしょう?」
そこに、一之瀬様のお母様も加わる。
「お父様、披露宴の代金でしたら、私どもで全額出しますから、どうぞご心配なさらないで」
一之瀬様のお母様はセレブの余裕で微笑んでいらっしゃるけれど、その笑顔を見たお父様の表情が、一瞬でガラッと変わった。
うわわわっ、ヤバい!