4.あいまいな関係 ― 6

前髪を優しくなでる手を感じて目を開けると、目の前に宮部の顔があった。
「み、や、べ……?」
「気がついた?」
「え、私……」
ボンヤリした頭のまま記憶を探っていると、宮部はひそやかに笑う。
「イッたとたんに気失っちゃうから、ビックリしたよ。いつも、あんなふうになっちゃうの?」
「えっ? いや、そんなことは……」
喋ってる間に、気絶する前のことを思い出した。
とたんに恥ずかしくなる。
「あの、だって、宮部がすごくて、あんなに激しいの初めてで……」
しどろもどろに答えると、宮部は照れたように微笑んだ。
「あぁ、ゴメン。たしかに俺、ちょっとあせってたかも。まさか今夜、姫とこんなふうになれるって思ってなかったから」

……え、そうなの?
意外な答えに、宮部の顔を思わず見返す。
だって、キスしてきたのは宮部の方だったよね?
でも……。
そのキスのあと、部屋に誘い入れたのは、私だ!
じゃぁ、ひょっとして宮部、今夜は私とエッチするつもりはなかったってこと?
やだっ、それじゃぁ、私、ひとりで突っ走っちゃったの?
とたんに顏に血が昇るのを感じる。
恥ずかしいっ!
布団に顔を隠してしまおうかと思った、そのとき。

――♪♪♪……。
聞き慣れない着信音が部屋に響き渡った。

「悪い。切るの忘れてた。俺のだ」
「あぁ、遠慮しないで出て。急用かもしれないし」
恥ずかしさをごまかすように、早口で告げる。
宮部は一瞬躊躇したものの、再度出るように促すと、下着だけ身に着けてスマホを拾い、玄関の方に向かった。
その間に、すばやく自分も服を身に着ける。

――ドキドキドキドキ。
うわぁ、どうしよう。
行為の最中は夢中だったから感じなかったけど、今になって、ドキドキしてきた。
私、宮部とエッチしちゃったんだ……。
宮部の方は、今夜はまだそういうつもりはなかったみたいだけど、でも、前から私のこと好きだって言ってくれてたし、これってつまり、私たち、付き合うってことで、いいんだよね?
あ、でも私、まだ宮部に自分の気持ち、ちゃんと伝えてない……。
っていうか、今夜は宮部からも好きとか愛してるとか、聞いてないかも!
あれ?
ヤバい。
お互いの気持ちを確認する前に、エッチしちゃったよ!
こんなの、初めてだー!
だって、学生時代の元カレたちとは、ちゃんと、好き、とか、付き合ってくださいって言葉があって、お互いにそれを了承して、そのあとデートを重ねて、キスしてエッチして、って手順を踏んでた。
それが普通だよね?
なのに、こんなふうに、気持ちを伝える前に先に身体の関係になっちゃうのって、どうなの……?

突如、不安になって、玄関の方の暗闇をそっと窺う。
すると、宮部の驚いたような声が聞こえてきた。

「……えっ、マジで? あー、うん、じゃぁ、これから俺も行きますよ……」

……え? これから行く? こんな時間からどこに?
ふと時計を見れば、もうまもなく12時。
そろそろ終電も出ちゃう時間なのに……。

しかし、思い悩む間もなく、電話を切って戻ってきた宮部は、すぐに服を着はじめた。
「姫、悪い。姫の言った通り、ホントに急用だった。慌ただしくてゴメンな」
「ううん、気にしないで」
心とは裏腹に、笑顔でそんな殊勝なことを言う私。
ホントは、行って欲しくない。
ちゃんと気持ちも伝えたいし、朝まで一緒にいたい。
でも……。

「じゃ、また明日な」
「うん、気をつけてね」

宮部は、さわやかな笑顔を残して、あっという間に出て行ってしまった。