4.あいまいな関係 ― 3

宮部が由梨と付き合ってなかったってわかって、歯止めがきかなくなってる。
このままこの気持ち、走り出させちゃっていいのかな……。
そのとき、ジョッキを下ろした宮部と、バッチリ目が合ってしまった。
ん? と、微笑む宮部。

――ドキン!

あわわわ、マズイッ!
ウウンと首を振り、その場を取り繕うために、慌ててジョッキを持ち上げ、一気にゴクゴクとビールを飲んだ。

すると、先に自分のジョッキを飲み干していた佐奈が、肩をパーンとたたいてきた。
「姫、いい飲みっぷり! ねぇ、次は、日本酒いっちゃうー?」
あれ? 佐奈、もう酔ってる?
佐奈、あんまり、お酒強くないもんね。
まぁ、そう言ってる私も、それほど飲めないんだけど。

佐奈は、テーブルの端に置いてあった、日本酒のメニューを引き寄せると、私に見せてきた。
そこには、日本全国の銘酒がずらりと並んでいる。
あー、なんかもう、頭がフワフワしてきたかも。 一気飲みして、酔いが回ったかな?
でも、気分は悪くない。
ううん、悪くないどころか、むしろ、楽しくなってきた。
せっかくこんなに日本酒を揃えてるお店に来たんだから、ここは飲まない手はないよね!

「えーっと、どれにしようかな……。一ノ蔵、八海山、黒龍……、あ、私、これ! 美少年!」
すると、すかさず宮部がつっこんできた。
「おい、姫、今それ、名前だけで選んだだろ?」
「フフフ、いいじゃない! で? そういう宮部はなに飲む?」
「んー、じゃぁ俺は、南部美人!」
「あー、ちょっとー! そっちこそ名前で選んでんじゃないの? 人のこと言えないじゃん!」

私と宮部のやり取りを聞いて、佐奈がケラケラ笑いだした。
つられて、私も吹き出すと、宮部も声を上げて笑う。
あー、楽しいー!
酔っぱらって、くだらないことに大笑いして。
今なら、どんなつまらないギャグでも笑えそう!
こんな開放的な気分、久しぶりだなぁ。

「よしっ! 今日は飲んじゃえー!」
「そうだそうだ! おーい、お兄さーん、注文お願いしまーす!」
私と佐奈が大きく手を振ると、バイトらしき店員さんが飛んできて、注文を取ってくれる。
「それからー、料理追加で、揚げ出し豆腐と、軟骨のから揚げと、あと……」
「おいおい、そんなに食べられるのか?」
「へーきへーき!」
呆れる宮部をよそに、私と佐奈はさらにいくつかおつまみを追加注文した。

食べて、飲んで、喋って、笑って。
宮部が由梨と付き合ってないってわかって、私、本当に安心したみたい。
かっこよくて、優しくて、仕事熱心で、私のことを好きって言ってくれてて。
もう、宮部を拒否する理由なんて、ないかも。
こうして仕事を離れて、プライベートで喋ってても楽しいヤツだし。

私、宮部と付き合ってみようかな……。

3時間ほど大騒ぎしながら飲んで、ふわふわと心地よい酔いの中で、そんなふうに私は思っていた。