2.ブライダルプランナー抜擢 ― 4

「姫、プランナー抜擢、おめでとう」
「う、うん、ありがと」
顔を引きつらせながらそう答えると、宮部はけげんそうに私の顔をのぞきこんできた。
「あれ? 嬉しくないの? 姫、もともと、プランナー志望だったよね?」
「うん、そうそう、プランナーになりたかったの。だから、もちろん嬉しいよ!」
我ながら、ちょっと不自然な言い方になっちゃった。
でも、今の複雑な心境だと、これが精一杯。
由梨の残像が消えないうちは、宮部に対して自然に振る舞えそうにない。
でも、せっかくプランナーに抜擢してもらったんだから、頑張らないと!
いぶかしげにこちらを見ている宮部から視線をそらし、ファイルを引き寄せた。
「これを使って接客するんだね」
「ん、あぁ……。じゃぁ、さっそく説明しよっか」
「はい、お願いします」
神妙に頭を下げると、宮部は気を取り直したようにニッコリ微笑み、説明を始めた。

宮部のよどみない説明は、20分ほどで終わった。
「ありがとう。あとの細かいところは、オフィスに戻って自分で読んでおくね」
「うん。じゃぁ、ファイルは重いから、俺が持ってくよ」
「あ、ありがと」
こういうところ、ホント、気が利いて優しいんだよね、宮部。
これだから、女子に人気があるんだ。
由梨も、後輩たちにも評判いいって、言ってたし。
……あぁ、またさっきの場面、思い出しちゃったよ、せっかく忘れかけてたのに。

会議室を出て、並んでオフィスに向かって歩きながら、宮部の横顔をチラチラとうかがう。
ホントにさっきの由梨とのアレ、なんだったんだろう?
結局宮部って、ただの女好きなチャラ男なの?
佐奈も由梨も、宮部は私ひとすじだって言ってたけど、やっぱり私が第一印象でいいなと思ったような男だもの、宮部も浮気っぽいタイプなんじゃ……。
あーぁ、こんなモヤモヤした心境で、今夜一緒に飲みに行って、大丈夫かな、私。
そんなことを考えていたら、急に宮部がこっちを見るから、思わずビクッと体をのけぞらせた。
でも、幸い、宮部はそれには気づかなかった様子。
「そうだ! 俺、姫に謝らなきゃいけないんだけどさ」
「えっ、な、なに?」
「今日の飲み会の約束なんだけど、急用が入っちゃってさ、別の日に変えてもらえないかな?」
「あ、そうなの?」

由梨と宮部のことが気になって、今夜の飲み会は、少し気が重いなぁと思ってたところだったから、そう聞いて、ほっとした。
でも、ほっとすると同時に、がっかりしている自分もいる。
我ながら、矛盾してるな、私……。
「ほんっと申し訳ない」
宮部は、心苦しそうに顔をゆがめて頭を下げてきた。
「えっ、いや、いいよ、そんなことしないで」
「ホントごめん。佐奈にも謝っとくけど、あとでふたりで相談して、また来週の都合のいい日、教えてよ」
「あぁ、うん、わかった……」

来週の都合か……。
由梨に、さっきのがなんだったのか、それに、由梨の宮部に対する気持ちもはっきり訊かないと、次の約束なんて、考えられないかも。
でも、由梨本人に聞くのは、ちょっと怖い気もする。
まずは、佐奈に相談してみようかな……。
そうこうするうちにオフィスに着き、私も宮部も、それぞれ自分の席に戻った。