2.ブライダルプランナー抜擢 ― 2

そして、翌木曜日。
いよいよ、宮部と飲みに行く日。
佐奈も由梨も、宮部はいいヤツだって言うし、私自身も、前からいいヤツだとは思ってたから、アイツのこと、積極的に考えてみようって決めたんだけど。
……どうしよう。なに着てこう?
宮部って、どういう感じが好きなのかな?
今まで気にしたことなかったけど、シフォンのブラウスにカーデを合わせた可愛い系がいいのか、それとも、かっちりめのストライプシャツにジャケットの方がいいのかな……。
って、ヤバい! あれこれ迷ってるうちに、もうこんな時間!
私はあわてて支度して駅まで走った。
なんとかギリギリセーフで出社して席につき、汗を拭きながらPCを立ち上げていたら。

「葛西さん、ちょっといいかな?」
「はい?」
声をかけてきたのは、佐藤マネージャーだ。
「15分後に第一会議室に来てくれるかい?」
「あ、はい!」
元気に返事はしたけど……、なんだろう?
佐藤マネージャーに呼び出される理由が思い当たらなくて首をかしげていると、隣の佐奈がつっこんできた。
「姫、なんかやらかした?」
「えっ、そんな覚えないよ!」
ざっと記憶を探ってみるけれど、昨日はなにごともなく一日過ぎたし、今週の予定にも変更はないはず。
「んー、わかんないけど、ちょっと気になるから、早めに行ってくるね」
「はーい、いってらっしゃーい」

佐奈に見送られて、オフィスを出る。
ホント、いったいなにごとだろう?
まったく見当がつかずに廊下を歩いていくと。

あっ、由梨! それに、宮部も。
廊下のずっと先に、由梨の後ろ姿が見え、その少し後ろを、宮部が歩いていた。
と、由梨が、なにか白いものを落とした。
なにか書類? あの大きさは、封筒かな?
知らせようと、口を開きかけたとたん、由梨の後ろにいた宮部が気づいて、それを拾う。
よかった、宮部が渡してくれるかな。
見守っていると、しゃがんでそれを拾った宮部は、由梨に声をかけた様子。
でも……。
アレ? なにやってんの? アイツ。
宮部は、振り向いた由梨にその書類を見せてすぐ、由梨が取り返そうと伸ばした手から、それを遠ざけた。
宮部、ふざけてんの?
ったく、子どもみたいなことして……。
文句のひとつも言ってやろうと、足を速めたんだけど。
宮部は、由梨の手首をつかむと、すばやく非常階段に通じるドアを開け、その向こうへ由梨を引っ張っていってしまった。

…………。
なに、今の?
宮部、由梨を非常階段に連れて行って、なにしようっていうの?
由梨も、ホントに嫌なら、宮部の手を振り払って、書類を取り返して立ち去ることもできたよね。
なんで、宮部の言いなりになってるの?

なんか、見ちゃいけないものを見ちゃった?
ふたりが消えた非常階段のドアのすぐ前まで来たけれど、その重いドアを開ける勇気はなくて。
耳を澄ませてみたけれど、なにも聞こえてはこないし。

……って、私、なにやってんだろ?
佐藤マネージャーに呼ばれてるんだから、こんなとこで油売ってないで、行かないと!
後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、会議室の方向へ体を向ける。
スタスタと歩きながら、私は、昨日のランチのときの由梨の言葉を思い出していた。
『宮部、ホントにいいヤツだと思うよ?』
『私だったら、即OKするけどなぁ……』

由梨、ひょっとして宮部のこと?
それに、宮部も、由梨のこと?

いや、さっきのあれだけじゃ、なんとも言えないよね?
宮部が入社以来ずっと、私にアプローチし続けてたのは、佐奈も由梨も認めるところだし、私の勘違いじゃないはず。
今夜、飲みに誘われたのも私だし。
でも……。
宮部が、私だけを誘っていたとは限らない。
由梨と私を天秤にかけてるとか?
どっちか、先にOKした方と付き合おうと思ってるとか?
由梨も今、フリーだし。
うーん、モヤモヤする……。

考えている間に、第一会議室前に着いた。
あー、ダメダメ! 今は仕事中!

――スー、ハーーー。
大きく深呼吸して、頭の中をまっさらにしてから、ドアをノックした。