1.同期のイケメン男子 ― 4

その日、無事に佐藤様のパーティーでのお世話も終えて、オフィスに戻ると。

「姫ちゃん、お疲れ様」
「あ、美里さん、お疲れ様です!」

長堀 美里(ながほり みさと)さんが、笑顔でねぎらいの言葉をかけてくれた。
美里さんは、今日の斉藤様の担当プランナーで、私より3つ上の先輩。
さっきまで、パーティー会場で進行を見ていたはずだけど、私が斉藤様を、着替えのために控室にご案内している間に、先に戻ってきてたんだろう。
ニッコリ微笑んでいる美里さんは、自分だって疲れているだろうに、そんな様子をまったく見せない。
明るいブラウンのミディアムヘアも、ピンク系でまとめたメイクも、まったく乱れてなくて、ホント、理想的な女子って感じ。

「姫ちゃん、今日もありがとね。さっき、ゲストお見送りのあとで、斉藤様、姫ちゃんにすごく感謝してるっておっしゃってたよ」
「えー、ホントですか? ご満足いただけたなら、よかったです」
「また来週も土日連続で入ってるから、よろしくね」
「はいっ、がんばります!」
「じゃ、私、会計確認に行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃい!」

美里さん、こんなに気さくで明るくてかわいいのに、うちのトップセールスを誇るエースプランナーなんだよね。
私の憧れの人。いつか、美里さんみたいなプランナーになりたいなぁ。
私は、ローテーション上、美里さんのお客様のアテンダントにつくことが多いんだけど、美里さんのお客様って、式当日にトラブルを起こすことが、ほとんどない。
それって、美里さんが、事前にお客様の要望をしっかりキャッチしてるからだと思うんだよね。
かわいくて、仕事もできて、ホント、尊敬しちゃう。

オフィスを出て行く美里さんを見送って自分の席に歩いていくと、佐奈が席にいるのに気付いた。
「あ、佐奈!」
ササッと隣の自分の席につき、小声で聞いてみる。
「今日、大変だったみたいだけど、大丈夫だった?」
すると佐奈は、メガネの奥の目を細めて。
「あぁ、最初だけ、ちょっとね。でも、パーティーが始まる頃には、もう全然!」
「そう?」
「うん。こちらの誠意が届いて、新郎さんが花嫁さんをなだめてくださったの。『俺はブーケと結婚するわけじゃない。君と一緒に、最高の一日にしたいから、ほら笑って』って」
「きゃー、マジで?」
聞いてるこっちが赤面しそうなセリフなんですけど!
私が口元を両手で覆うと、佐奈はいたずらっぽく笑う。
「ちょっとキザっぽいけど、でも、そのおかげで花嫁さんの機嫌直ってさ」
「えー、そうなの?」
「そういうセリフが似合う超イケメンだったのよ、新郎さん」
「へぇぇ」
「だから、ノープロブレム!」
「そっか。なら、よかった。由梨のミスだって聞いて、ちょっと心配だったんだ」
そう言うと、佐奈も少しだけ顔を曇らせた。
「うん。由梨もすごく責任感じてて、もちろん一緒に謝ったよ。でもホント、最後にはすごくいいパーティーになってね。雨降って地固まるって感じ? 新郎新婦のおふたりもゲストの皆さんも、みんな満足してお帰りになられたから、大丈夫だよ」
「そっかぁ、よかった」

ホッとして、頬をゆるめると、そこに宮部が寄ってきた。
「ふたりでなんの話?」
顔を上げると、意味ありげに私を見つめてくる。
あ、なんか、嫌な予感……。
また飲みに誘われるのを警戒して私が口を目をそらすと、代わりに佐奈が答えた。
「今日のお客様の話してたとこ。宮部、今朝はホントにありがとね!」
「いや、俺は全然」

ん? なんで佐奈が宮部に礼を言うの?
目で問いかけると、佐奈は説明してくれた。
「今朝、ブーケが違うってわかったあと、まりあさんに言われて、フローリストに、なんとか注文通りのブーケを用意できないか確認しにいったの。
で、由梨に事情を話したんだけど、今回のブーケ、ちょっと珍しいお花を入れる予定で、今フローリストにストックしてあるものじゃできないってわかって、由梨も私もパニックになっちゃって。
しかも、フローリストのマネージャー、今日に限って病院に寄ってから出勤するとかで、連絡もつかないし。
由梨とふたりでおろおろしてたら、そこに宮部が来て、『とにかくおまえらは、まりあさんと一緒にお客様に頭下げて来い、花は俺が探しとくから』って言ってくれて。
で、私と由梨がお客様のところで謝ってる間、宮部は、近隣のフラワーショップに何軒も電話して聞いてくれたのよ」

へえぇ、なかなかいい仕事するじゃん、宮部。
ちょっと感心して宮部を見ると、照れくさそうにはにかんでいる。
「でも、結局見つけられなくて、役立たずだったけどな」
「ううん、そんなことないよ。宮部のその対応を聞いた新郎さんが、『そこまでしてくれたんなら、もうブーケはあるもので十分』って、花嫁さんを説得してくれたわけだから」

なるほど。宮部の誠意が新郎さんを動かしたわけだ……。
宮部が、プランナーとしてお客様に評判いいのは、顔がいいからだけじゃないことは、薄々わかってはいたけど。
ただ、同期で唯一プランナーになれた宮部には、嫉妬する気持ちもあって、素直には認めがたいんだけどね。
そんなことを思っていたら。