1.同期のイケメン男子 ― 2

「あぁ、おはよ」

軽く挨拶を返してやり過ごそうとしたのに、宮部は体を反転させた。
「今日は晴れて良かったな」
「まぁねー」

昨日までは長雨が続いてたんだけど、今日は久々にいいお天気になった。
6月は、ジューンブライド希望者が多くて、会社としては嬉しい悲鳴を上げるほどなんだけど、なんせ、梅雨真っ盛り。
雨の結婚式が多くて、お世話係としては、気が抜けない。
でも、今日は雲ひとつない青空が広がっている。
いい結婚式日和だな……。
窓の外の青空を見あげつつ、スタジオへ歩を進めていると、なぜか宮部はそのまま私について来る。

「私になにか用?」
そっけなく訊くと、ニッコリ微笑んで顔をのぞきこんできた。
「姫、今日、これ1件だけだろ? 終わったら飲みに行こうよ」

もう……、またか。
なにかっていうと誘ってくるんだよね、コイツ。
まぁ、そのあしらいにも、もうすっかり慣れたけど。

「今、仕事中でしょ。宮部もさっさと自分のお客さんとこに行けば?」
「俺、今日、非番だもん」
「だったら、接客カウンターに座ってなきゃダメでしょ」
私と違って、ブライダルプランナーの宮部には、担当客の結婚式がない日には、下見に来る新規のお客様の接客業務がある。ところが……。
「フフン、残念でした。まだ10時前」
そう言って宮部は、得意げに私の目の前に腕時計を差し出してきた。
あー、はいはい、そうでした。接客カウンターの営業開始時刻は、10時でした!
私は、ムッとしながら、目の前の腕をグイッと押しやって、足を速めた。
いっつも、ああ言えばこう言うんだから!
あぁーーーっ、ムカつく! 
「私は忙しいの、邪魔しないで!」

と、そのとき。

――バタバタバタッ。

慌てた様子で、誰かが、私たちを追い抜いていった。
なにごとかと見ると、ブライダルプランナーのチーフの、椎 まりあ(しい まりあ)さんが、血相を変えてお客様の控室に飛び込んでいく。
もうプランナー歴10年のベテランで、頼れる姉御的存在のまりあさんが、あんな切羽詰まった顏するなんて、いったいなにごと?

「なんかあったのかな?」
宮部も驚いたみたい。
顔を見合わせていると、今度は、私と同じ黒いパンツスーツ姿の誰かが、その控室から出てきて、廊下をダッシュしていく。
シルバーの細いフレームのメガネに、ハーフアップの髪……。
「えっ? 佐奈?」
間違いない。同期の谷村 佐奈(たにむら さな)だ。
いつも冷静な佐奈が、お客様も通る廊下を走るなんて。
明らかに尋常じゃない、なにかが起きたんだ。

「俺、ちょっと見てくるわ」
宮部は、まりあさんが飛び込んだ控室前に掲げてあるお客様の名前を確認すると、佐奈が向かった方に走っていった。

あっちは、フローリストのオフィスの方だけど……?
気になったけれど、私には私の仕事がある。
佐奈と宮部が消えた廊下の先を見やってやきもきしつつも、私は体の向きを変えてスタジオへ向かったのだった。