1.同期のイケメン男子 ― 1


ウェヌスハウス吉祥寺。

私が勤めているのは、東京郊外にある、ウエディングゲストハウス。
いつも季節の花々であふれている緑豊かなガーデンと、白いチャペル、そして、100人規模のパーティーが行える3つのヨーロッパ風邸宅が自慢の結婚式場。
ここで私は、ブライダルアテンダント……、平たく言えば、花嫁さんのお世話係として働いている。

就職して、3年目。だいぶ仕事にも慣れて、自信もついてきた。
ただ、私が本当になりたいのは、ブライダルプランナーなんだけどね。
お客様にいろんなウエディングプランを提案する仕事がしたくて、ここに就職したんだけど、現実は甘くなくて、研修後に渡された辞令に書いてあったのは、「ブライダルアテンダント」。
一応、毎年、プランナーになりたいって希望は出してるんだけど、なかなか……。
でも、今の仕事が嫌いってわけでもなくて、毎日、それなりに楽しく働いている。

6月初旬の日曜日、午前9時。
更衣室の鏡の前に立ち、恒例の全身チェック。
アテンダントの制服である、黒のパンツスーツとローヒール姿の自分を、頭のてっぺんから足の先まで、じっくり観察する。
アテンダントは、いわば黒子。目立ってはいけないけれど、お客様に失礼のないように、きちんとしていなければならない。
メイク良し! スーツ良し! パンプス良し! だけど……。
胸のあたりにまで伸びて、くるんとカールしている毛先をつまんで、目の前に持ち上げてみた。
あちゃー、痛んでる。
パーマかけたの、いつだったっけ? そろそろ美容院行かないと。
そんなことを考えながら、ポーチからゴムを取り出して、後ろでキュッとひとつに結わえる。
うん、この方がいい!
「よしっ」とひと声、自分に活を入れ、私は更衣室を出た。

――コンコンコン。
「失礼いたします」
今日お世話するお客様の控室に入ると、すでに支度を済ませた花嫁さんが笑顔で迎えてくれた。
「本日はおめでとうございます。本日、斉藤様のお世話をさせていただく、葛西 姫子(かさい ひめこ)と申します」
「斉藤です。よろしくお願いします」

あ、いい感じ……。
清楚に微笑んでくれた今日の花嫁さんは、いい人そうで、ホッとする。
実は、昨日はちょっと大変だったんだよね。花嫁さん、直前に新郎さんとケンカしちゃったみたいで、ずーっとご機嫌斜めで。
でも、今日の花嫁さんは、お式もスムーズに進みそう。

笑顔で会釈を返したとき、ドレスのすそがめくれているのに気づいた。
「ちょっと失礼します」
足元にしゃがみこんですそを直すと、花嫁さんは丁寧に「ありがとうございます」と声をかけてくれた。

あぁ、やっぱりいい人だぁ。
どの花嫁さんにも最善のサービスを心掛けてはいるけれど、やっぱり、こういうふうに言葉をかけてもらうと、モチベーション上がるよね。
「このあと、新郎様とおふたりの写真撮影をいたしまして、そのあと、ご両家の親族顔合わせ、という流れになります。それから……」
段取りを説明し終えると、私は撮影スタジオの準備状況を確認するために、いったん廊下に出た。すると。

「よっ、姫。おはよ」

通りかかったのは、同期の宮部 和樹(みやべ かずき)。
ライトグレーのスーツにマリンブルーのネクタイの、ブライダルプランナーの制服が、よく似合っている。
こちらに向けてきた笑顔は、今日もさわやかだ。
ホント、なんて無駄なさわやかさ……。
斜めに前髪を下ろした清潔感あふれる黒髪の下で、目が合うとすぐに微笑む、少し垂れ気味の二重の目が、ニコニコしている。
頬なんて、ファンデ塗ってる私よりなめらかそうだし、口角の上がった唇はつやつやピンクだし。
これだけイケメンで、そのうえ人懐こくて誰とでもすぐに打ち解けるから、社内の女子には当然大人気。
しかも、どことなく品のある顔立ちは、お客様にも好印象を与えるようで、ブライダルプランナーとしても、いい成績を上げてるんだよね。

でも、そういうヤツだからこそ、私はコイツに気を許せない。
いっつも、とっかえひっかえ、いろんな女の子とチャラチャラ遊んでるの、知ってるもんね。