1.ドSなイケメン上司 ― 3


そんなことを考えていたら、さっそく目の前に、PowerPointで作られた資料が差し出された。見たところ、客先に提出したシステム提案書っぽい。

「後藤物産のシステムだが……」

うわぁ〜、相変わらずだ。
半月ぶりでも5年ぶりでもどっちでもいいけど、久しぶりって言ったんなら、もうちょっとお互いの近況報告とか、本題に入る前に軽い雑談くらいあってもいいのに。
陣野さんは、無駄話などいっさいせずに、すぐさま仕事の話に入るつもりらしい。
こういうところ、変わってないな……。
ま、そういう真面目なところも、好きなんだけどね。
それならば、と私も頭を仕事モードに切り替え、顔の表情を引き締めなおす。

「後藤物産とうちの付き合いが長いのは、知ってるか?」
「はい、知っています。後藤物産さんは、うちの重要顧客ですから」
うん、と私の返事に満足そうにうなずいた陣野さんは、PowerPointの表紙をめくって続けた。

「ここのシステム、ひと言で言ってしまえば物流管理システムなんだが、一気に導入ってわけにいかなくて、4つのフェーズに分けて導入している。
現在は、フェーズ3のデバッグ作業の終盤。
メンバーは全員、客先のコンピュータールームに常駐して、テストとデバッグを行っている。
おまえも、今日の午後からさっそく合流してもらう。
あぁ、そうそう、おまえ、データベースの資格を持ってるそうだな?」

――ギクリ。

データベースか……。

「えーっと、はい。一応、資格は取りました」

そう、“一応”、ね。
9月まで携わっていた仕事が始まる前、もう1年位前だけど、提案段階ではデータベースを使うかもって話があったんだよね。
それで名護屋さんに、研修を受けて、ついでに資格も取ってこいって言われて、取るには取ったんだ。
だけど結局、仕事で使う必要はなくなって、宝の持ち腐れ状態。
だから正直、実務で使えるスキルはない。
あくまでも、テキストで勉強して資格を取ったっていうだけ。

我々の仕事の現場では、知識として知っているのと、実際にそれを使いこなせるのとでは、当然後者の方が重宝される。
そういう裏の意味を汲み取ってくれることを期待して、“一応”、って言ったんだけど。

「じゃぁ、問題ないな。
今、うちのチームには、新人と2年目がいるんで、そいつらにテストをやらせて、他の年長のメンバーにはデバッグをさせてるんだが、阿久津にはデータベースの方を見てもらうから。
仕様書は向こうにあるから、見てもらえばわかると思うが……」
「…………」

陣野さんはよどみなくシステムの説明を続けている。
でもさ、本音を言えば、今ここでそんな説明だけ聞いても、現物を見ないとよくわかんないよーって感じなんだよね。それに……。

あーぁ、マジかぁ……。私、データベース担当なの?
気が重いなぁ。
応援なんだから、もっと軽い仕事回してくれればいいのに。
なんなら、新人と同じ扱いでも、全然かまわないんだけどなぁ……。
なーんてことを考えていたら。

不意に、陣野さんが資料から目を上げた。
バチっと視線がぶつかる。

――ドキン。

固まった私が目を離せないでいると、陣野さんは、意味ありげにニヤッと笑った。