2.ブライダルプランナー抜擢 ― 6

すると、佐奈は私を励ますように声を明るくして美里さんに訊く。
「でも、お客様にも予算があるわけじゃないですか? それを大きく超えてまで、押し売りするようなことはしなくていいんですよね?」
美里さんは、それを聞いて慌てたようにうなずいた。
「うん、それはもちろん。私たちの仕事は押し売りではないもの。予算の中で、折り合いをつけていただくよう、サポートしていくのが、腕の見せ所よ」
「なるほど。だってさ、姫」
「うん……」
佐奈に、大丈夫だよ、という感じで目配せされ、少しほっとしてうなずく。
でも、具体的なことをもっと知りたい。

「じゃぁ、たとえば、折り合いのつけ方って、どんなふうにするんですか?」
「そうね……、よくお客様が予算で悩まれるのが、ご自身たちの衣装にかける金額と、お料理の金額をどうするかってことでね」
「衣装と料理ですか」
「そう。お色直しの回数を増やせば、衣装代が跳ねあがる、で、料理は安くせざるを得ない。でも、お色直しをしなければ、ワンランク上のお料理出せる。さぁ、どうしようって迷われるのね」
「うーん、それは迷いますね」
「そんなとき、私がよくするのが、結婚式と披露宴は、それぞれ誰のために行うものかっていう話」
「誰のため?」
「えぇ。結婚式は、新郎新婦が永遠の愛を誓う儀式だから、当然、ふたりのために行うものでしょ?」
「はい」
「じゃぁ、披露宴は?」
「披露宴は……」

これも、新郎新婦のためのものじゃないの?
でも、美里さんん口ぶりからすると、違うみたい……。
私が考え込んでしまうと、美里さんはヒントをくれた。
「披露宴の招待状って見たことある?」
「はい、去年結婚した友達から、もらいました」
「どういう内容だったか覚えてる?」
「えっと、今度結婚することになったので披露宴をするから出席してください、って感じだったと思いますけど……」
「そうね。披露宴は、新郎新婦もしくはご両家が、結婚の報告と、今後のお付き合いのお願いのために、ゲストをもてなす場なの。つまり、披露宴は、ゲストのために開くのね」
「あぁ、なるほど!」

結婚式は、新郎新婦のためのもので、披露宴はゲストのためのもの、か。
これは覚えておかなくちゃ!

「だからね、私はよく、ゲストの気持ちになってみてくださいって、言うの」
「ゲストの気持ち……」
「そう。もしゲストが、ご両親とご祖父母様だけなら、お子さん、お孫さんの晴れ姿をいくつ見ても、にこやかに見守って下さるでしょう。でも、親族以外のゲストは、どう思われるでしょうか、って」
すると、佐奈が口をはさんできた。
「あー、それ、すっごくよくわかります! 私も、3月に友達の披露宴に行ったんですけど、お色直しの着替えの時間が長くて、ちょっと飽きちゃいましたもん」
「そうなのよね。披露宴でのゲストの不満の第一位がまさにそれなの。待ち時間が長いと不評なのよ」
「なるほど」
「そういうアンケート結果もお見せすると、たいていのお客様は、お色直しの回数を減らして、お料理をグレードアップする方を選ばれるわ」
フムフム、とうなずいていると、美里さんは、少しいたずらっぽく微笑んだ。
「ただね、これには裏があって、ゲストの数にもよるんだけど、30名上のゲストの場合は、衣装代よりお料理の差額の方が、会社の利益も増えるのよ」
「えっ、そうなんですか?」
「だから、これは、ゲストのためにもなりつつ、会社のためにもなる提案なの」
すると、佐奈が感嘆の声を上げた。
「わー、さすが美里さん! エースプランナーはやることが違いますね! 姫、今の話、よーく覚えておきな!」
「うん!」

すごい!
ホントにさすが美里さんだ。
お客様やゲストのことも考えつつ、会社の利益も考えるなんて。
尊敬しちゃうなぁ。
やっぱり美里さんは、私の憧れのプランナーだぁ!