7.四角関係……? ― 5
『彼女なんだから』って鈴木さんは言ったけど、私には、その実感がいまひとつない。
ふたりきりのときに、好きだ、愛してるって言われてないっていうのもあるけど、それよりも、私が宮部のことを知らなすぎることの方が、理由としては大きいんだと思う。
美里さんとクロサワさんとの関係もそうだし、お祖父さんとの思い出だって、この間初めて聞いたばっかりだし。
私、宮部のプライベートって、全然知らないんだよね。
飲み会とかで聞いたことあるのは、東京の下町の方の出身で、大学は都内のどっかの国立大で、小学校の頃から中高までずっと野球をやってたらしいってことくらい。
……どれも、不確かな情報ばっかり。
いくら、つい最近まで宮部に関心がなかったとはいえ、こんなんで、2回もエッチしちゃったなんて……。
宮部のことを、もっと知りたい。
宮部、今、どうしてるかな……。
「あっ、みんな、そろそろ行かないと時間!」
「わぁっ、ホントだ、急がなきゃ!」
バタバタと会計を済ませ、小走りで会社に戻る。
結局、話はそこまでになっちゃったけど、今、宮部が置かれている状況はだいたいわかった。
よし、決めた!
今夜、宮部をデートに誘おう。
それで、知りたいことを全部訊こう!
宮部がちゃんと私を彼女として考えてくれてるなら、きっとなんでも話してくれるはず。
うん、そうしよう!
そう決めてしまうと、少しだけ心が軽くなった。
ところが……。
昼食からオフィスに戻り、席にいた宮部をさっそく捕まえる。
「宮部、お疲れー!」
「おう、お疲れ」
「あのね、一之瀬様と源様の次の打ち合わせの資料が一応できたんだけど」
「あぁ、悪い。俺、午後も会議室だから、机に置いといてくれる? あとで見ておくから」
「えっ、あのっ」
「じゃ、そういうことでよろしく! もしわかんないこととかあったら、まりあさんに訊いて」
「えっ、宮部……」
宮部はファイルと筆記用具を持つと、さっさと会議室に行ってしまった。
そんなぁ……。
取りつく島もないって、まさにこういうのを言うんだよね。
あーぁ、デートに誘う隙もなかった。
あとで見ておくって、つまり、定時には帰れないってことでしょ?
今夜は飲みに行くの、ムリか……。
まぁ、しかたない、また明日にでも誘おうか。
考えながら、卓上カレンダーを見る。
今日が、6/28木曜日。
あさっての6/30土曜日が、午後1時から一之瀬様と源様の打ち合わせ。
明日は、あさってに備えて早く帰った方がいいよね。
だったら、打ち合わせには宮部も同席してくれるだろうから、土曜の帰りに誘ってみよう!
よし、そうと決まれば、私もお仕事がんばろうっと!
張り切って資料を持ち、まりあさんに相談するために席を立った。
すると。
「姫ちゃん、この間のお客様、戻ってこられたんだって?」
美里さんだ!
いつもどおりの笑顔でこっちに歩いてくる。
昨日は美里さんお休みだったし、午前中は接客コーナーに入られていたから、直接話をするのは数日ぶり。
さっきまりあさんから聞いた話を思い出すと微妙な気持ちになるけど、かろうじて笑顔で答える。
「はい、おかげさまで……」
「このあいだは力になれなくてごめんね」
「いえ、とんでもないです」
「でも、一度断られたお客様を呼びもどすなんて、もう一人前ね」
「いえいえ、まだまだこれからです」
「がんばって、応援してる。なにかあれば言ってね」
「はい……」
美里さんは私に背を向け、自席に着く。
美里さん、どういうつもりなんだろう?
今の感じからは、心の中で私をよく思ってないようには見えない。
宮部やまりあさんが言うように、本当にあのときのトークは、わざと、だったんだのかな?
宮部のことをどう思っているのか、クロサワさんは何者なのか……?
いっそ、直接訊いてみる?
でも、クロサワさんの名前なんて出したら、盗み聞きしたことがばれちゃうか。
やっぱり、美里さんに訊くことなんてできないよね。
私はそっとため息をつき、まりあさんの席に向かった。