2.ブライダルプランナー抜擢 ― 7

すっかり美里さんに心酔して食事を終え、3人で店を出たところで、佐奈が肩をたたいてきた。
「そういえば、宮原から聞いた? 今日ダメになったって」
「あぁ、うん」
「来週の空いてる日教えてって言われたんだけど、姫の都合は?」
「んー、いつでもいいけど……」

ホントは、由梨と宮原のことが気になって、それどころじゃないんだけど、美里さんがいる前じゃ、そんな相談できないよね……。
そう思ってたら、その美里さんがさりげなく話に入ってきた。
「宮原君とどこかに行くの?」
佐奈が美里さんに向き直って答える。
「今夜、3人で飲みに行く予定だったんですけど、宮原の都合が悪くなって延期になったんですよ」
「へぇ、よく3人で飲みに行くの?」
「いえ、今回が初めてです」
「あ、そうなんだ……」
なぜか美里さんはほっとした様子。
なんでだろうとちょっと不思議に思ってたら、佐奈がいたずらっぽい表情で続けた。
「3人でって言っても、私はおまけなんですけどね」
「え、おまけ?」
なんとなく嫌な予感がして、佐奈に目で「美里さんに変なこと言わないでよ」って伝えたんだけど。
「実は宮原って、入社当時から、ずーっと姫狙いなんですよ。でも、姫がなかなか落ちないんで、ちょっと手助けしてやろうと思って飲み会をセッティングしたんです」
「ちょっと、佐奈!」
目の合図は伝わらなかったようで、慌てて佐奈の袖を引っ張ったけど、時すでに遅し。
「えー、そうなの? 知らなかった……」
あーぁ、美里さんに余計なこと知られちゃったよ。
「いや、美里さん、違うんです。宮原は、女の子ならだれとでも食事とか行ってますし、私だけ特別ってわけじゃ……」
「えー、そんなことないって! ランチに行ってるのは、女の子たちに誘われたときだけで、アイツから誘ったのなんて見たことないもん!」
私の言い訳は、あっさり佐奈にさえぎられ、美里さんは、戸惑ったような、微妙な表情を浮かべている。
あー、やだなぁ、もう。
尊敬する先輩に、色恋沙汰のウワサとか、耳に入れてほしくないのに。

「とにかく! 美里さん、私は、宮原とはなんでもないですから!」
「まぁ、まだ今のところはなにもないのは私も認めるけどね。でも、姫、プランナーの教育係、宮原になったんでしょ?」
「え……、あぁ、まぁね」
「あ、そうなの?」
ちょっと驚いた様子の美里さんに、うなずく。
「本当は、美里さんに教えていただきたかったんですけど、美里さんは、まりあさんからの引き継ぎで忙しいから、って佐藤マネージャーに断られちゃって」
「あぁ、そうね……」
美里さんは、ちょっと頬をひきつらせたように微笑んだ。
まりあさんからの引き継ぎが、大変なのかも。
佐奈は、かまわず続ける。
「でも私は、いい機会なんじゃないかと思ってるよ。たしかに、プランナーとしては美里さんの方が宮原よりずっといいと思うけど、姫は、宮原を毛嫌いしすぎ。一緒に働いたら、宮原、仕事熱心だし、アイツのいいとこも見えてくると思うよ」
「いや、私だって、宮原が仕事ができないとは思ってないけど……」
「佐藤マネージャーだって、宮原のことを認めてるから、姫の教育係にしたんだと思うし。この機会に、よーく宮原のこと見てみたらいいよ」

あーぁ、なんで佐奈は、そんなに宮原を私に勧めるかなぁ。
もう言い返す気力もなくなって、私は唇をとがらせて黙り込んだ。
美里さんも、私と佐奈のやり取りにあきれたのか、それとも、もう午後の仕事のことを考えてるのか、うつむき加減で黙って歩いている。
うー、ちょっと心配だなぁ。
美里さんに、浮かれてる、とか思われて、軽蔑されてなきゃいいけど。
私は今は、恋より仕事!
美里さんみたいに優秀なプランナーになるんだから!
でも、そんなことは、口に出すことじゃないよね。
ちゃんと行動で示そう!
そう心に誓って、私はオフィスに入っていった。